【静かだと落ち着かない】ADHDの集中力を覚醒させるピンクノイズとは?

【静かだと落ち着かない】ADHDの集中力を覚醒させるピンクノイズとは? - Neuro Tokyo

「静かな方が集中できる」とよく言われます。でも、ADHD(注意欠如・多動症)のある人にとっては、その“静けさ”がかえって落ち着かない、ということがあるのをご存知ですか?

ADHDは、注意のコントロールや集中の維持が難しい神経発達特性のひとつです。集中している最中でも、周囲のちょっとした音や刺激にすぐ注意がそれてしまうことがあります。特に、外からの音や視覚的な刺激に敏感な人にとっては、「気が散る」ことが日常的に起こるものなのです。

そんな中、アメリカの研究チームが発表した最新の研究結果が注目を集めています。それは、「白色ノイズ」や「ピンクノイズ」といった“環境音”を使うことで、ADHDの人たちの集中力が改善される可能性がある、というものです。しかも、スマートフォンやYouTube、アプリを使って自宅でも手軽に試せるという点も魅力です。

この記事では、その研究内容とノイズがもたらす集中のメカニズム、そして実際にどう活用できるかをわかりやすく解説していきます。


目次

まずは用語の解説から。白色ノイズとは、すべての周波数の音が均等に含まれている雑音のことです。ラジオのチャンネルを合わせていないときの“ザーッ”という音が典型例です。ピンクノイズは、それよりも低い音の成分が多く、雨音や滝の音、波の音など、自然界でよく聞く落ち着いた音に近いとされます。

これらは「ノイズ」と呼ばれますが、不快な騒音ではなく、背景に流れているとむしろ安心感を与える音です。近年では、睡眠導入や赤ちゃんの夜泣き対策としても使われており、「人の脳にとって心地よいノイズ」として注目されてきました。


今回の研究を行ったのは、アメリカ・オレゴン健康科学大学(OHSU)の神経科学チーム。彼らは、小学生から大学生までのADHD診断を受けた若者を対象に、白色ノイズとピンクノイズを流しながら注意課題に取り組んでもらい、その集中力やタスク遂行能力にどのような影響があるかを調べました。

結果は興味深いものでした。ADHDのある参加者は、ノイズを流した条件下の方が、そうでない時よりも一貫して集中力が高くなる傾向が見られたのです。一方で、ADHDの特性を持たない人には、逆に集中の妨げになることもありました。

このことから研究者たちは、「脳の刺激応答のバランスがADHDでは異なり、ある程度の“音の刺激”がちょうどよい助けになる可能性がある」と結論づけています。


この現象には、神経心理学的な背景があります。

ADHDの人の脳は、環境からの刺激(たとえば時計の音、誰かの話し声、車の音など)に対して非常に敏感で、しかもそれらを「無視する」フィルター機能が弱いとされています。これは「刺激選択性の低下」と呼ばれ、脳が必要な情報と不要な情報を分けるのが苦手な状態を意味します。

そこに一定のノイズ(白色・ピンクノイズ)が加わると、環境音の細かな変動がかき消され、脳にとって「背景が一定になる」ことで、注意を向けるべき対象がより明確になると考えられているのです。

つまり、“ザーッ”という一見ただの雑音が、実は脳の中では「他の余計な音をマスクしてくれるカーテン」のように働いている可能性があるのです。


このような音の活用は、すでに家庭や学校現場で取り入れている人たちもいます。たとえば、以下のような声が聞かれます。

  • 「子どもが宿題に取りかかるとき、YouTubeで雨音の動画を流すと明らかに集中力が上がる」
  • 「学校の静かすぎる教室だとそわそわしていた子が、ホワイトノイズを流すと落ち着いて座っていられるようになった」
  • 「カフェで勉強していた方が集中できる理由が、自分の脳には“程よい雑音”が必要なんだと気づいた」

このように、音を使った集中支援は、薬や専門的なトレーニングに比べて“すぐにできる”という点でも、非常に大きなメリットがあります。


では、実際にどうやって取り入れることができるのでしょうか?ポイントを以下にまとめます。

1. ノイズを手に入れる

  • YouTubeで「white noise」「pink noise」と検索(例:「10 hours of white noise」「Rain sounds for studying」など)
  • スマホアプリ(「myNoise」「Noisli」「Calm」など)

2. 音量は控えめに

  • 音楽と違い、あくまで“背景音”として使います。意識に上らない程度の音量が理想です。

3. 時間と場所を決めて習慣化

  • 毎日決まった時間、たとえば「宿題開始から30分間だけ」「読書タイムに」など、場面に合わせて使いましょう。

4. 子どもには事前説明を

  • 「この音は集中の助けになるんだよ」と、使う意味を共有することで効果も上がります。

いくら安全とされるノイズとはいえ、長時間の使用や大音量には注意が必要です。特に小さな子どもの場合、聴覚への影響も考慮して、適切な音量・時間管理が大切です。また、ASD(自閉スペクトラム症)傾向のある人では、音刺激に敏感な場合もあるため、必ず本人の反応を確認しながら導入することが推奨されます。

また、ノイズで集中できることと、「ADHDそのものが改善される」わけではないという点も誤解のないようにしましょう。これはあくまで集中支援のひとつのツールであり、薬物治療や心理療法の代替ではありません。


研究者たちは、今後さらに「どのような種類のノイズが、どのタイプのADHDに合うのか」や、「聴くタイミングや音のリズムで効果に違いが出るのか」といった詳細な検証を進めていくとしています。

将来的には、脳波モニタリングと連動して、その人に最も合う音を自動で流す“スマート集中補助デバイス”の開発も期待されています。たとえば、授業中に集中が切れてきたときに、適切なノイズが自動で流れる──そんな未来も遠くないかもしれません。


ADHDの支援というと、どうしても「大がかりな療育」や「専門的な知識」が必要と思われがちです。しかし、今回の研究が示すように、耳から入る“ちょっとした音”が集中の助けになることもあるのです。

自宅でもすぐ試せる、特別な道具も不要。本人の負担も少なく、安心して取り入れられる方法として、白色ノイズ・ピンクノイズは今後ますます注目されるでしょう。

音で変わる集中力。まずは気軽に“ザーッ”と流してみることから始めてみませんか?

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