【ASD支援】BTSのSUGAが約5億円を寄付しASD支援センターを設立──音楽療法“MIND”を核にした新たな支援モデル

【ASD支援】BTSのSUGAが約5億円を寄付しASD支援センターを設立──音楽療法“MIND”を核にした新たな支援モデル - Neuro Tokyo
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BTSのSUGA(シュガ、本名:ミン・ユンギ)さんが2025年6月、韓国・延世(ヨンセ)医療院セブランス病院に「ミン・ユンギ治療センター(Min Yoongi Treatment Centre)」を設立すると発表し、大きな注目を集めました。自閉スペクトラム症(ASD)を抱える子ども・若者への支援を目的としたこのセンターは、SUGAさんが50億ウォン(約5億円)を個人で寄付し設立されるものです。

ASDとは、社会的なやり取りやコミュニケーションの難しさ、特定の興味や行動のこだわりなどを特徴とする発達障害の一つです。診断件数は年々増加しており、韓国国内外でも早期診断と多面的な支援の重要性が指摘されています。SUGAさんのこの取り組みは、単なるチャリティの枠を超え、発達障害支援のあり方に新たな視点をもたらすものでしょう。

セブランス病院との連携

SUGAさんは2024年11月からセブランス病院小児精神科のチョン・グナ(Cheon Geun-ah)教授らと協力し、ASDにおける長期的・統合的な治療の必要性を理解する中で、センター設立を決意しました。従来の診療では、言語療法や心理療法、行動療法が別々に提供されるケースが多く、継続的な支援が困難でした。

個人名を冠したセンター設立の意味

SUGAさん自身の名前が冠された「ミン・ユンギ治療センター」は、単なる資金提供にとどまらず、本人がプログラムの設計にも深く関与している点が特徴です。寄付発表の際、「この支援が社会に必要な変化をもたらすきっかけになってほしい」と語った彼の言葉には、真摯な社会的責任感がにじみ出ています。

多職種連携による統合的治療

センターでは、言語療法士、臨床心理士、音楽療法士、行動療法士、医師、看護師など、専門職が横断的に連携し、患者ごとにカスタマイズされた支援を提供します。目標は短期的な症状の軽減ではなく、社会的スキルの向上や自己理解の促進、生活の質(QOL)の改善にあります。

発達段階に応じたサポート

年齢や発達段階に応じ、以下のような段階的支援が計画されています:

  • 幼児期(3〜6歳):感覚統合、言語発達支援、保護者向けカウンセリング
  • 学童期(7〜12歳):学習支援、集団療育、行動調整プログラム
  • 青年期(13歳以上):自己認識支援、対人関係訓練、進学・就労支援

このように、一過性ではないライフスパンを見据えた支援体制が整えられています。

MINDの概要

「MIND」は、Music(音楽)、Interaction(相互作用)、Network(関係性)、Diversity(多様性)の頭文字を取ったプログラム名です。音楽を媒介とした社会性支援を目的とし、音楽制作、演奏、リズムトレーニングなどを通じて、感情の表出や他者との相互作用を育みます。

プログラムの構成

以下のようなセッションが用意されています:

  • ギター・パーカッション演奏:リズム感や協調性を高める
  • 作詞・作曲ワークショップ:感情や考えを言語化し、共有する
  • グループセッション:他者との協働体験を通じた対人スキル向上

参加者は「楽しいから続けられる」「自分を表現できる」と好意的に捉え、実際に言語的表現や非言語的な相互作用の改善が報告されています。

臨床研究との連携

MINDは単なる感性教育にとどまらず、臨床研究と連携し、介入前後の変化を科学的に測定します。今後はプログラムのマニュアル化、海外への導入も検討されています。

現場参加と才能寄付

SUGAさんは2025年3月〜6月の週末を利用して、実際のセッションにギター演奏者・指導者として参加。子どもたちにリズムのとり方を教えるだけでなく、プログラム設計やセッションの進行方法にも助言を行いました。こうした姿勢は、単なる広告塔ではない「才能の寄付(Talent Donation)」として、医療関係者からも高く評価されています。

BTSファンのグローバルな影響

SUGAさんの活動はBTSファン(ARMY)の間でも広がりを見せています。インドのファン団体「Desi ARMY」は、彼の活動に触発され、「Yoongi’s Healing Notes」と名付けた音楽療法プロジェクトをニューデリーのASD支援センターで始動しました。音楽と共感の力が国境を越えて連鎖しているのです。

新しい医療モデルとしての価値

「MIND」のような音楽療法は、芸術と医療が融合する新たなモデルとして注目されています。従来の医療モデルが症状の抑制や適応を主軸にしていたのに対し、MINDは「自己表現」や「関係性の構築」といった人間的な側面を中心に据えています。

また、発達障害に対する社会の見方を変える契機にもなり得ます。「支援される存在」ではなく、「能力を引き出される存在」としてASDを捉える視点は、インクルーシブ社会の実現にも貢献します。

ポリシーメーカーへの示唆

今回の取り組みは、行政や教育機関にも示唆を与えるものです。例えば、学校教育への音楽療法の導入や、発達障害児を対象とした文化芸術予算の拡充といった制度的な後押しが求められるでしょう。

2025年9月の正式開設に向けて

「ミン・ユンギ治療センター」は、2025年9月に正式オープンを予定しています。開設後は常設型のMINDプログラムに加え、以下のような施策も進められる予定です:

  • ASD支援に関する国際カンファレンスの開催
  • 保護者支援プログラムの開発
  • 臨床データに基づく研究論文の発表
  • 海外へのプログラム輸出と研修

このように、芸能人主導の取り組みとしては異例のスケールと本格性を備えています。

SUGAさんの取り組みは、単なる慈善活動ではなく、「共に生きる社会」を構築する一歩です。芸術と医療の融合、そしてグローバルな共感の連鎖。これらが重なり合ったこのプロジェクトは、発達障害支援の未来にとって重要なモデルケースとなるでしょう。

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