はじめに
ADHD(注意欠如・多動症: Attention Deficit Hyperactivity Disorder)には、ADHD 種類として大きく3つの表現型(presentation)が存在します。「集中が続かないタイプ」「じっとしていられないタイプ」「その両方を持つタイプ」——同じADHDでも現れ方は一人ひとり異なり、必要な支援や困りごとの内容も変わります。Faraone ら(2021)の国際コンセンサス声明では、成人ADHDの世界的有病率は約2.5〜5%と推定されており、いずれの表現型も臨床的に一般的です。本記事では、DSM-5-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版テキスト改訂版)に基づき、3つの表現型の特徴と違いを解説します。
DSM-5-TRにおける3つの表現型
DSM-5-TR(APA, 2022)では、ADHDの症状を不注意と多動性-衝動性の2領域に分類し、それぞれ9項目の診断基準を定めています。子どもの場合は各領域6項目以上、17歳以上の成人では5項目以上の該当が求められます。いずれの症状も12歳以前から存在し、2つ以上の場面(職場・家庭・対人関係など)で機能障害を引き起こしていることが診断の条件です。
この2領域の該当パターンにより、以下の3つの表現型(ADHD タイプ)が区別されます。
- 不注意優勢に存在(predominantly inattentive presentation)——不注意の基準を満たすが、多動性-衝動性の基準は満たさない
- 多動・衝動優勢に存在(predominantly hyperactive-impulsive presentation)——多動性-衝動性の基準を満たすが、不注意の基準は満たさない
- 混合して存在(combined presentation)——不注意と多動性-衝動性の両方の基準を満たす
Willcutt ら(2012)のメタ分析(対象: 研究86件、n = 163,688名)では、混合型が最も多く、次いで不注意優勢型が多いことが報告されています。
各タイプの特徴と大人での現れ方
3つの表現型は、日常生活のなかで異なる困難として現れます。以下は、大人の場面を中心にした比較です。
| 表現型 | 主な特徴 | 大人の日常で現れやすい場面 |
|---|---|---|
| 不注意優勢 | 注意の持続困難、忘れっぽさ、整理整頓の苦手さ | 会議中に集中が途切れる、書類の提出期限を忘れる、タスクの優先順位がつけられない |
| 多動・衝動優勢 | 落ち着きのなさ、待てない、発言を遮る | 会議中にそわそわする、順番を待てない、思いつきで発言や行動をする |
| 混合型 | 上記の両方の特徴を併せ持つ | 不注意と多動・衝動の両面で困難を抱える |
大人のADHDでは、子ども時代に見られた「走り回る」「席を離れる」といった外に見える多動が減少し、代わりに内的な落ち着きのなさ(頭のなかが忙しい、リラックスできないなど)として経験されることが多いと報告されています(Faraone et al., 2021)。そのため、成人期には多動性-衝動性の症状が目立ちにくくなり、混合型と診断されていた人が不注意優勢の特徴を中心に示すようになるケースも珍しくありません。
「サブタイプ」から「表現型」への用語変更
DSM-IV(1994年版)では、ADHDの3分類は「サブタイプ(subtype)」と呼ばれていました。しかし、DSM-5(2013年)以降は「表現型(presentation)」に用語が変更されています。
この変更の背景には、ADHDの分類が時間とともに変動するという研究知見があります。Lahey & Willcutt(2010)の縦断研究レビューでは、子ども時代に混合型と診断された人の多くが、成長とともに不注意優勢型へ移行することが確認されました。「サブタイプ」という用語は固定的な下位分類を連想させるのに対し、「表現型」はある時点での症状の現れ方を示す用語であり、経時的な変動の実態をより正確に反映しています。
つまり、ADHDの3分類は「生涯変わらない種類分け」ではなく、今現在どのような症状パターンが優勢かを記述するものです。
不注意優勢型が見逃されやすい理由
3つの表現型のなかで、不注意優勢型は最も診断が遅れやすい傾向があります。多動や衝動性のように外から観察しやすい行動が目立たないため、教室や職場で「問題児」として認識されにくいのです。
Willcutt ら(2012)のメタ分析では、不注意優勢型は女性に多い傾向が報告されています。多動が少ないために周囲から困りごとに気づかれにくく、「怠けている」「やる気がない」といった誤解を受けやすいことも指摘されています。結果として、診断を受けるまでに長い年月がかかり、不安やうつなどの二次的な問題を抱えてから受診に至るケースが少なくありません。
ADHDの診断プロセスの詳細は、大人のADHD診断ガイドで解説しています。
自己診断の限界
インターネット上には「ADHDチェックリスト」が多数存在しますが、これらだけでADHDの表現型を正確に判別することはできません。DSM-5-TRの診断基準は、症状の数だけでなく、発症時期(12歳以前)、機能障害の程度、他の疾患との鑑別など、複数の条件を総合的に評価するものです。
Faraone ら(2021)は、ADHDの診断には臨床面接、行動観察、心理検査を組み合わせた包括的な評価が不可欠であると強調しています。「自分はどのタイプだろう」と気になった場合は、精神科や発達障害専門外来など、実行機能(executive function)を含む認知特性を総合的に評価できる専門機関への相談が推奨されます。
ADHDとASDの特徴が重なる場合の見極めについては大人のADHDとASDの違いで、両方の特性を併せ持つケースについてはAuDHDとはで、それぞれ詳しく解説しています。
おわりに
ADHDには、不注意優勢・多動衝動優勢・混合型の3つの表現型があり、同じ診断名でも日常の困りごとは大きく異なります。かつては固定的な「サブタイプ」と見なされていましたが、現在では経時的に変動する「表現型」として理解されています。とくに不注意優勢型は外から見えにくく、診断の遅れにつながりやすい点に注意が必要です。自分や周囲の人の特性を理解する第一歩として、本記事の情報を役立てていただければ幸いです。正確な評価を得るためには、専門機関での包括的な診断が重要です。
参考文献
- American Psychiatric Association. (2022). Diagnostic and statistical manual of mental disorders (5th ed., text rev.). American Psychiatric Association Publishing. https://doi.org/10.1176/appi.books.9780890425787
- Faraone, S. V., Banaschewski, T., Coghill, D., Zheng, Y., Biederman, J., Bellgrove, M. A., Newcorn, J. H., Gignac, M., Al Saud, N. M., Manor, I., Rohde, L. A., Yang, L., Cortese, S., Alber, D., Frumento, P., Schweren, L. J. S., Mober, M., Rohde, C., Ramos-Quiroga, J. A., ... Wang, Y. (2021). The World Federation of ADHD International Consensus Statement: 208 evidence-based conclusions about the disorder. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 128, 789-818. https://doi.org/10.1016/j.neubiorev.2021.01.022
- Lahey, B. B., & Willcutt, E. G. (2010). Predictive validity of a continuous alternative to nominal subtypes of attention-deficit/hyperactivity disorder for DSM-V. Journal of Clinical Child & Adolescent Psychology, 39(6), 761-775. https://doi.org/10.1080/15374416.2010.517173
- Willcutt, E. G., Nigg, J. T., Pennington, B. F., Solanto, M. V., Rohde, L. A., Tannock, R., Loo, S. K., Carlson, C. L., McBurnett, K., & Lahey, B. B. (2012). Validity of DSM-IV attention deficit/hyperactivity disorder symptom dimensions and subtypes. Journal of Abnormal Psychology, 121(4), 991-1010. https://doi.org/10.1037/a0027347