要約

ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder:注意欠如・多動症)は、不注意・多動性・衝動性を中核症状とする神経発達症です。DSM-5-TR では子どもの約5%、成人の約2.5%に見られるとされ、遺伝的要因が強く関与します。薬物療法や心理社会的介入で症状のコントロールが可能です。

定義

注意欠如・多動症(ADHD)は、発達水準に不釣り合いな不注意および/または多動性・衝動性が持続し、複数の状況で機能や発達を妨げる神経発達症である。

— DSM-5-TR(American Psychiatric Association, 2022)

ICD-11 でも 6A05「注意欠如多動症」として同様の基準で分類されています。

症状のサブタイプ

DSM-5-TR は以下の3つの表出(presentation)を定めています。

  • 不注意優勢に存在: 忘れ物、指示の聞き漏らし、注意の持続困難が中心
  • 多動・衝動優勢に存在: 落ち着きのなさ、おしゃべり、順番を待てない等が中心
  • 混合に存在: 上記両方が顕著

どの表出が現れるかは年齢によっても変化し、成人期には多動性が内的な落ち着きのなさとして現れることが多いとされています。

背景・なぜ重要か

ADHDは歴史的には「行動の問題」として捉えられてきましたが、20世紀後半以降の神経科学の進展により、前頭前野・線条体を中心とした脳のネットワークの発達の違いが明らかになっています。世界的には学齢期の子どもの約5〜7%に見られ、日本でも近年、成人期の診断と支援の必要性が広く認識されつつあります(厚生労働省, 2023)。

未診断・未支援のまま成長した場合、うつ病・不安障害・物質使用障害・事故のリスクが高まることが縦断研究で示されており、早期の理解と支援が重要です。

診断基準の要点(DSM-5-TR)

  • 不注意または多動・衝動性の症状が 6ヶ月以上持続 している
  • 12歳以前 から症状が見られる
  • 2つ以上の状況(家庭・学校・職場など)で認められる
  • 社会的・学業的・職業的機能を 明らかに阻害 している
  • 他の精神疾患ではより良く説明できない

主な診断・評価ツール

  • CAARS(Conners' Adult ADHD Rating Scales): 成人向け自記式/他者評価
  • ASRS(Adult ADHD Self-Report Scale): WHOが作成した簡易スクリーニング
  • Conners 3: 児童青年向けの包括的評価
  • WURS(Wender Utah Rating Scale): 成人期に小児期を振り返る評価
  • 実行機能検査(BADS、BRIEF など)

近年は脳波(EEG)や仮想現実(VR)を用いた客観的評価の研究も進んでいます。

主な介入・支援

  1. 薬物療法: メチルフェニデート徐放剤(コンサータ)、アトモキセチン(ストラテラ)、グアンファシン(インチュニブ)、リスデキサンフェタミン(ビバンセ)など
  2. 心理社会的介入: 認知行動療法(CBT)、ペアレントトレーニング、ソーシャルスキルトレーニング
  3. 環境調整: 刺激の統制、タスクの分割、視覚化、リマインダーの活用
  4. 併存症の治療: うつ、不安、睡眠障害など併存する問題への対応

よくある誤解・落とし穴

  • 誤解: 「ADHDは子どもだけの病気」→ 成人期にも持続することが多く、症状の表れ方が変わるだけ
  • 誤解: 「薬で性格が変わる」→ 適切に処方された治療薬は、集中や衝動の制御を助けるものであり、性格を変えるものではない
  • 誤解: 「しつけや努力で治る」→ 神経発達の違いに起因するため、意志や努力だけで症状は解消しない

参考文献

  1. American Psychiatric Association. (2022). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (5th ed., text rev.; DSM-5-TR).
  2. World Health Organization. (2019). International Classification of Diseases (11th rev.; ICD-11).
  3. Faraone, S. V., Banaschewski, T., Coghill, D., et al. (2021). The World Federation of ADHD International Consensus Statement. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 128, 789–818. https://doi.org/10.1016/j.neubiorev.2021.01.022
  4. 厚生労働省(2023). 発達障害者支援に関する情報. https://www.mhlw.go.jp/

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